
暗闇の中でさえ、色は確かに存在する。横浜の港で見つけた空の紺青に重なる雲の深み。街灯の温かな黄色が石畳を照らし、水たまりに映る光は夜の色を浮かび上がらせる。水面の黒みは艶やかに揺れ、朝を待つみなとみらいの表情を描き出す。
この広場はやがてイベント会場となり、人々の賑わいで満ちる。だが今は、夜の色彩が静かにその時を待っている。
はじめてこのレンズで撮った写真を見た時、世界の見え方が一変した。暗闇の中に潜む色彩が、そこに確かにあった。写真は、私の目が捉えきれなかった夜の表情を映し出していた。
私たちは、明るさの中でしか色を見ないと思い込んでいた。けれど、光の数だけ夜は色を持っている。街灯一つで、港町の風景はこれほどの表情を見せる。
昨今の日本では、省エネの意識が高まり、街の明かりが少しずつ変化している。横浜の象徴だった港の照明も、LEDの青白い光に置き換わっていく。それでも、あるいはそれだからこそ、街の光が作り出す陰影は新しい夜の風景を描き始めている。
物価高や円安に揺れる社会の中で、夜の街を歩く人々の足取りは重い。関内の街灯は変わらず道を照らし、帰路を急ぐ人々に寄り添っている。コロナ禍の影を引きずる街並みでも、闇と光が織りなす港の風景は、静かに私たちの日常を包んでいる。
カメラのレンズを通して見る世界は、時に現実以上のものを映し出す。デジタル技術の進化で、かつては捉えられなかった暗所での撮影が可能になった。しかし、大切なのは技術ではない。その先にある発見の喜び、新しい視点との出会いだ。
街のネオンが控えめになり、省エネへの意識が高まる昨今。それでも横浜の夜は、私たちに無限の色彩を見せてくれる。光が抑制された時代だからこそ、一つ一つの明かりが作り出す陰影の美しさに気づかされる。
光の当て方を変えれば、見慣れた風景は新しい表情を見せる。それは写真が教えてくれた大切な気づきだ。世界は、見方を変えることで違う姿を現す。経済や社会の暗い影も、違う角度から光を当てれば、新たな可能性が見えてくるのかもしれない。
夜の色に気づくとき、世界はもっと豊かに見えてくる。そして私たちは、その豊かさの中に、明日への光を見出すことができる。